スピルバーグ版ウェストサイドストーリー。セットデザインの色にこだわったデコレーターコメントを翻訳解説!

何度も見たくなる映画、しかも何度も劇場の大画面で!となると案外少ないもの。
そんな中で、スピルバーグ監督による、リメイク版ウエストサイドストーリーは、観た人が口を揃えてまた観たい!という素晴らしい作品です。

ど迫力のダンスシーンのカメラワークを彩る色使い、セットデザイン・・・
映画館で、このシーン止めて〜!ジックリ見せて〜と何度も言いたくなるぐらい!
美しい映像だけでなく、ストーリーの深さを含めて何度見ても見飽きることはありません。

この記事では、この素晴らしいセットを装飾したセットデコレーターのコメントと、映像監督の言葉を翻訳しまとめました。
彼らのコメントからも、スピルバーグ監督がこの映画に込めた世界へのメッセージを感じ取ることができます。

SDSA 記事

セットデコレーターは 米国のセットデコレーター協会所属の リーナさん。
プロダクションデザイナーは、アダムさん。

(映画は必ず、ビジュアルコンセプトを決める「プロダクションデザイナー」と、
実際にデザイン装飾をする「セットデコレーター」で構成されています。)

やっぱりその意図だったか!と思った箇所から、ご紹介していきます。

目次

対立を色で表したマンボのシーン

ウェストサイドストーリーで、バーンスタインの曲の数々が『神』なのはいうまでもありません。
その中でも、「マンボ!」は、対立する二つの勢力の、一触即発の緊張感が高まるハイライトシーンのひとつです。

デコレーターのリーナさんは、冒頭にこう語ります。

映画全体を通して、象徴的な色彩を多用しました。ブルー、グリーン、グレーはヨーロッパ移民勢力のJetsに。ピンク、オレンジなどの、南国の島の暖色は、プエルトリコ移民勢力のSharksに使いました。

やはりそうだったか、と。オリジナル版より、一貫して色分けがはっきりと現れていました。
衣装もタイムレスな素敵なデザインで、一人一人見ていきたくなります。
スピルバーグ監督が、抜群にセンスの良い衣装デザイナーを起用したことが伺えます。

加えて、私は空間装飾として、天井のドレープの濃いめ黄色(マリーゴールド色)に注目しました。
反対色として青みを引き立て、黄色オレンジとはうまく馴染み、広い空間の中で分断する色彩を融合させる見事なテクニックです。

二つの勢力の色に属さない主役達のドレスカラー。

このシーンでドレスの色がどちらのグループにも属さないのが、主役のマリアと、プエルトリコ側のリーダー、ベルナルドのガールフレンド、アニータです。

アニータはブラックで、内側が真っ赤なドレス。ダンスの女王としても姉御肌の貫禄を表しています。
一方マリアのドレスは、ピュアホワイト
清楚さを表している反面、アニータに借りた赤いベルトで自己主張も感じます。
さっと赤い口紅を引きながら会場に向かうシーンも、「赤」に女性としての強さを感じます。

(スピルバーグの過去の映画でも赤が女の子に対して印象的に使われているな、と感じます。このことは長くなるので、いつか別記事でお話ししたいと思います。)

映像監督カミンスキー氏の色彩。光と影を駆使したカメラワークが見事!

誰もが圧倒されるスペクタルなこのダンスシーン。
まるで私たちがダンサー達に混じって一緒に踊っているような臨場感と躍動感が画面いっぱいに広がるカメラワークは、映像監督のヤヌス・カミンスキー氏の優れた手腕によるものです。映像チームにダンスをするスタッフを起用して、リアル感を追求したとのこと。

オリジナル版より、女性の強さを感じたのもこのシーンです。
男性達のエスコートがありながらも、女性達が回るたびにスカートの裾がまるで色とりどりのスライサーのように、エレガントな武器に、踊りながらヒールでのキックも鮮やかです。
女性達ならではの方法で相手勢力を挑発する迫力が、映像からも伝わってきます。

そしてこのシーンの後半、いよいよマリアとトニーが運命の出会いをするシーンはあまりに美しく、切ない。

狂ったように激しく踊る群衆の中で、ふたりが時が止まったようにお互いを見つめ、磁石のように舞台裏で近づく・・・
動と静の対比、光と影を、このシーンの映像は見事に表しています。

映像監督にカミンスキー氏を器用するようになってからのスピルバーグ監督の作品は、より色彩と光と影の映像美が増したと感じていましたが、今回で確信!です。

とにかく、このマンボシーンは何度も見たくなるポイント満載で、空間デザイナーとしても是非みていただきたいおすすめのシーンです!

マリアの部屋のベットカバーに込められた意味

50年台後半のアメリカの時代背景に合わせたマリアのお部屋は、文句なしに可愛い。
リーナさんによると、若い女性らしさのピンクをメインに、ミントグリーンを添えたとのこと。
とても画面映えする配色で、私もウェディングのスタイリングによく使います。

リーナさん曰く、

このアパートは、装飾よりも機能を重視し、生活感があるようにセットしました。若者達がアメリカを目指して、物をあまり持たずにやってきた背景をふまえ、ユーズド品を使っているのでミスマッチだけれど、ソウルフルな装飾物にしました。

とのこと。

家族写真、お祈りのカード、翡翠色のグラス、コスメとセルロイドのアクセサリー・・・
全て思いのこもったものがマリアのデスク兼ドレッサーの上に飾られています。

でも、マリアのベットカバーの色だけ、ブルーであることに気づいていましたか?
同居するアニータのベッドカバーは暖色のピンクなのに!?

ブルー系は相手勢力、Jetsを象徴する色!
主人公マリアが、もうすぐJetsの元リーダーであるトニーと禁断の恋に落ちるフックの意味を込めたのだそうです。
リーナさんのコメントで、私は初めて気づきました。芸が細かいですね。

床のエイジング加工は、1930年代のシアーズのカタログから。

このアパートは、マリア達が住む家でありながら、アニータの仕事場でもある設定です。
リーナさんは、

若者達は、生きるためにこの土地=NYのウエストサイドに来て戦っている、そしてプライドを持って生きていくために、都市開発中で埃っぽくても、部屋をきれいにしようとする、生活の場へのプライドも表しました。

とのこと。

台所の棚に置かれたビンテージな扇風機は、夏の暑さと戦う大事なもの。日常品の細部にもストーリーを持たせています。

そして、リーナさんは、床のビニールクロスにこだわったそうです。

1930年代のシアーズのカタログでこの柄を見つけ、グラフィックアーティストに送ってプリントしてもらいました。
ただのビニールの上へのプリントなので、うまく風合いが出るかわからなかったのですが、エイジング加工をしたら見事、素敵に仕上がったのです!さらに、皆が歩けば歩くほど、味わいが増しました。

とのこと。

またスピルバーグ監督は、どの角度からも撮影したいタイプなので、狭いアパートのセットのどの場所も全て抜かりなくつくったのだそうです。

アニータのカラフルな布のシーンは、元々なかった?!

カラフルな布の向こうで、ベルナルドとアニータがいるシーンはとても印象的でした。
実は、元々なかったシーンで、その場でのアイデアで生まれたのだそう!

映像監督のカミンスキー氏はIndieWireの記事でコメントしています。

カミンスキー氏インタビュー

スピルバーグ監督は、アパートシーンに、寝室と仕切るステンドグラスや、窓枠のカラフルなジェルの他に、アニータが染めている布があることを望んでいた。ライティングを始めると、その布の背後にある人物の影から非常に美しい効果を得られることに気づいたのです。

さすが、光と影の魔術師、カミンスキー映像監督ならではの技ですね!

アカデミー賞助演女優賞のアリアナ・デボーズがNYの街を駆け抜け、歌い踊る「アメリカ!」街に希望の花を咲かせる色彩が見事!

「アメリカ!」も、ウェストサイドストーリーを代表する、クラッシックミュージックです。
オリジナル版と最も違うところは、このシーンをNYの街を使って撮影したことかもしれません。
オリジナル版は、ビルの屋上で歌うシーンでしたが、街中を駆け抜けながら踊るスピルバーグ版は、より壮観でダイナミックです。

マンハッタン島に住む希望を歌う、プエルトリコ系のアニータと女性達の強さが、ここでもオリジナル版より強く表れていると思いました。
男達を突き飛ばし、パンチし、引っ張っていきながらどんどんと、街の真ん中に躍り進んでいく。
衣装の色も、イエローかレッドで統一。
踊りながらスカートが広がるたびに、まるでヒマワリの花が、どんどんと開いていくよう!
太陽に向かって力強く、希望を持って生きていきたい女性達のエネルギーが街中に広がっていくような力強いシーンであり、ベルナルドとの愛が深まった最高の日を表しています。

誰もが圧倒される壮大なダンスシーンは、画面上にアニータの存在感いっぱい!でした。
アニータ役のアリアナ・デボーズが、オスカー初ノミネートにして助演女優賞受賞は、誰もが納得!でしょう。

クイア(Queer) であり、アフロラティーナである彼女が、「私たちにも居場所があることを信じて!」と力強く語った受賞スピーチにも、この映画に込められたスピルバーグ監督の想いとも重なるようでした。

スピルバーグ監督が60年経って伝えたかったこととは?

リーナさんは最後にこう語っています。

スピルバーグ監督は、自分の周りにベストなスタッフを集めて、信用してくれました。プロダクションデザイナーのアダムとも全てを曝け出して話し合いました。プロセスにおいて承認を得ることに時間がかかったものもありましたが、一旦承認されると、全てをスピルバーグ監督は任せてくれました。それはとても敬意があり、心地よく、お互いの関係に良いインスピレーションを与え合えたのです。この仕事に関われたことはとてつもなく光栄です。

私は、このコメントに、スピルバーグ監督に一貫しているポリシーを感じました。
それは、他人への敬意です。

スピルバーグ版では、プエルトリコグループは、ラテンの俳優とダンサー達を起用し、スペイン語でのシーンを多く入れています。
オリジナル版では、ベルナルド役のジョージチャキリスも、マリア役のナタリーウッドも、実は皆、顔を黒く塗っていたそうです。唯一本当のラテン系の役者は、アニータ役のリタ・モレノだけでした。ラテン系の俳優が少ない時代だったのですね。

そして、今回、そのリタが店主役として、二つの対立する勢力を見守っている設定に変えたことも、スピルバーグ監督のオリジナル版への敬意を感じます。監督はリタの意見にも全て耳を傾けたそうです。

オリジナル版の監督は、JetsとSharksのメンバーを、撮影中交流させなかったそうですが、
スピルバーグ監督は積極的に交流する機会を作ったとこの動画で語っています。
芝居の上での分断が、新たな分断を生まないように配慮したのではないでしょうか。

最も悲劇となるこのシーン撮影後に、両グループの役者さん達がハグをしお互いを称え合っています。
彼らも、スピルバーグ監督のおかげだとコメントしています。

敵だった若者達が、ベストフレンドになっている。言葉にならない、JOY=喜びがそこにはあった。

とスピルバーグ監督も語っています。

世界もこうなればいいのに、と思わずにはいられません。
舞台裏の動画ですが、現場のとっても良いシーンを捉えているので、是非観ていただければと思います。

スピルバーグ監督が語る、舞台裏

また、LGBTQへの理解も織り交ぜています。
「エニバディーズ」と呼ばれるトランスジェンダー役は、実は最初から最後まで気になる存在でありました。
認められようとしても居場所がいつもない。腕っ節も強いけれど、本当は心優しくて皆のために尽くしている・・・
スピルバーグは、エニバディーズにさりげなく光を当てているように感じました。

リタ・モレノ扮する、バレンティナがが歌う、「サムホエア – Somewhere」はスピルバーグ監督の手によりさらに心に響くものになっているのではないでしょうか。

There’s a place for us, somewhere a place for us.
私たちには居場所がある、どこかに私たちのための居場所がある。

We will find a new way of living.
私たちは、新たな生きる道を見つけ、

We will find a way of forgiving.
私たちは許す方法を見つける。


West Side Story より「Somewhere」

実際、社会の分断は、オリジナル版から60年経っても、おさまるどころか更なる分断を生んでしまっています。
日本でこの映画の公開されて間も無く、世界が思いもよらなかった戦いの火が立ち上りました。

決して映像美だけで終わらない、人類が常に抱える愛と光と闇をテーマとして、
この映画は、スピルバーグ監督の手により、美しく迫力ある映像で新たな世代へと受け継がれていくのを感じました。
この時代にスクリーンで観ることができて本当に良かったと思っています。

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