エリザベス女王の国葬は、伝統と歴史、文化の壮大な美しさが世界中の人々の心に残るものでした。
とりわけ棺の上に飾られたお花は、まるで女王の面影のようで目を惹くものでした。
私は、国葬の映像を見ながら、かつて高島屋さんのイベントで王室御用達のフローリストと王室のお花のイベントをさせていただいた時の記憶が蘇っていました。
王室を彩るお花には独特の決まりがあります。
とりわけ、エリザベス女王が愛した、王室では必ず使われる伝統的な枝の「マートル」という植物があり、この国葬でも随所に使われていました。
この記事では、エリザベス女王追悼記事として国葬で作られた棺の上のリースについて専門雑誌から解説したいと思います。
チャールズ国王がエリザベス女王のために選んだ花々は、バッキンガム宮殿のお庭から摘まれたものだった。
この国葬で女王の棺の上に飾られたお花のリースは3つありました。
国葬中継中に、すでに Country Living よりお花の詳細記事が配信されていて驚きました。
それだけ王室のお花や植物に関心が高いのだなあと、改めてイギリスの園芸文化を感じますね。
記事では、3つ目=最後のお別れのピンクのリースから解説されています。
イギリス王室のお花は、伝統的にお城のお庭から摘まれる習慣があります。
この3つ目のリースは、チャールズ国王自らがバッキンガム宮殿のお庭と、チャールズ国王の公邸のクラレンスハウス、ハイグローブハウスの庭から女王のために選ばれたのだそうです。
使われたお花は以下の通りです。
- ピンクのガーデンローズ
- ハーブのローズマリー
- 秋色紫陽花
- セダム
- ダリア
- スカビオサ
色彩は
- ピンク
- 白
- バーガンディ
- ゴールド
王室の基準=ロイヤルスタンダードカラーでまとめたそうです。
エリザベス女王が愛したマートル(ギンバイカ)の枝。グリーンに想いを込めた棺の上のリース。
Foliage was chosen for its symbolism, including rosemary for remembrance and English oak which symbolises the strength of love. Myrtle was cut from a plant that was grown from a sprig of myrtle in the Queen’s wedding bouquet.
Country Living
記事はお花に添えられたグリーンについてさらに解説されており、グリーンにも想いが込められたことを解説しています
- ローズマリーは追憶のシンボル
- イングリッシュオークは愛の強さのシンボル
- マートルの枝は、幸せな結婚のシンボル
なんと、マートルはエリザベス女王のウェディングブーケに使われた枝が成長した、同じ枝から手折られたものが使われたそうです。
一人の女性として、フィリップ王配を生涯愛した想いも込められたのでしょう。
私が、英国王室御用達フローリストとのお仕事で忘れられないエピソードも、マートルでした。
キャサリン妃のブーケにもマートルを使ったので、高島屋でのイベントでもぜひ使用したい、と私に最も重要な花材としてリクエストが来た特別な枝で、以来、私のウェディング装飾のクライアントにもストーリーをお話しする大切な花材となりました。
日本ではマートルは「ギンバイカ」という名で知られ、5月から6月頃可憐な白いお花が咲き、ブルーの実をつけます。
枝を切ると、ほんのりユーカリのような香りがする枝で、クリスマスリースに使うこともあります。
エリザベス女王の謙虚で控え目なお人柄の一面も感じますね。
棺の上のリースは、チャールズ国王がサステナブルな作り方でリクエストしたデザイン
チャールズ国王は、熱心な環境保護の活動家としても世界に知られています。
King Charles requested the wreath to be made sustainably without the use of floral foam. The wreath also features a small handwritten card from the King, which says: “In loving and devoted memory, Charles R.”
Country Living
記事では、スカイニュースからの情報として、チャールズ国王は、この棺の上のリースをお花を形作るために汎用されている「フローラルフォーム」という化学的なスポンジを使わないようにリクエストしたそうです。
実際、昨今海外での花装飾シーンでも、土に帰らないフローラルフォームを使わない動きになっており、
私も外国人のお客様には、私の小さな環境活動として、フローラルフォームを使わないデザインでご提案をしていました。
このリースでは、おそらく給水にはモス=苔を使っているのではないかと想像しますが、フローリストにとっては、長時間運ばれる前提で給水や崩れないデザインなど、とてもテクニックが必要となります。
チャールズ国王が、エリザベス女王の国葬でこのようなリクエストをされることは今後の世界中の花業界にもインパクトを与えることは間違いないでしょう。
国葬を自国のためだけではなく、世界中の環境のために、語らずとも本質を姿勢で示していく一国のリーダーの品格ある姿に頭が下がります。
宮殿に人々が手向けたお花は、肥料として土に返す、王室の環境への想い。
宮殿やイギリス王室に関わる全ての施設には、国民や世界から集まった人々からの追悼の花束が手向けられました。
とりわけ、女王が最期を過ごしたバルモラル宮殿、バッキンガム宮殿、ウインザー宮殿、サンドリンガム宮殿はまるでお花のカーペットのようで、女王がどんなに愛されたのかが偲ばれる映像でした。
この膨大な数のお花をどうするのか、と誰もが疑問に思うと思うのですが、ここはさすが園芸大国のイギリス。
王室のボランティアのガーデナー達が、花束のラッピングを外し、花束を王族のお庭の肥料=コンポストにしていく作業がロイヤルファミリーチャンネルの動画で紹介されていますので、ぜひご覧ください。
これもまた、園芸を愛する王室のある国ならではの素晴らしい活動ですね。
Since the announcement of Her Majesty’s death, mourners have been flooding to royal residences to lay tribute bouquets. In particular at Balmoral, Buckingham Palace, Windsor and Sandringham.A dedicated memorial flower garden has been set up in Green Park, London. Here, mourners have been helping Royal Parks gardeners take the plastic wrapping off the flowers, to aide the compost process and keep the blooms looking fresh.
Country Living
エリザベス女王の国葬から受け取ったメッセージ。
私はかつて、日本のRHS J英国王立園芸協会の日本メンバーだったことがあります。(残念ながら現在この協会は日本には残っていません。)
エリザベス女王の並々ならぬ自然を愛する想いには、その活動中からも深く畏敬の念を抱いていました。
幸いにも、イギリス王室の花のイベントのお仕事で、日本とロンドンを繋ぐコーディネーターとして王室御用達のフローリストのシェーンさんと密にお仕事をさせていただいたことは、私が海外との仕事を本格的に始めたターニングポイントとなりました。
国葬では、イギリスの伝統と歴史の様式美に世界中の人々が魅了されました。
大英帝国の揺るがぬ品格を基軸として、エリザベス女王がイギリス国民に対し、世界に対し、次世代に繋いでいく普遍なるもののメッセージが込められていたように感じます。
自然環境の活動でいえば、エリザベス女王が愛し望んだ地球へ美しい自然を戻していく活動を、これからはチャールズ国王が引き継いでいくのでしょう。
経済の側面だけでなく、このような成熟した大人の考えを持ち尊重する文化大国に、心から羨ましさを感じました。
私にとっては、この国葬は一人のフラワースタイリストとして、自然をお仕事の一部にさせていただいているという、ぶれてはいけない大切な軸を再認識させられたものとなりました。
20代で女王に即位し、世界を守り続けたエリザベス女王。
私だけでなく世界各国の多くの女性たちが、それぞれの立場で影響を受けたことでしょう。
崩御された発表後に、バッキンガム宮殿とウインザー城の両方に大きなダブルレインボーがかかったのは、地球上に大きな使命を持って生まれた偉大な一人の女性への、宇宙からの追悼メッセージだったのかもしれません。
プラチナジュビリーの時の、パディントンとの可愛い共演も忘れることはできません。
偉大なエリザベス女王に、心からの哀悼の意を捧げます。
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