この記事では、話題の映画 「ハウス・オブ・グッチ」のインテリアやデザインについて、空間装飾スタイリストの視点で見どころをお話ししたいと思います。
世の中が閉塞的な中、久々に華やかなセットデコレーションが楽しめるのでは、と公開を心待ちにしていたこの映画。
超高級メゾンの大スキャンダルの舞台となる、イタリア・スイス・NYそれぞれの国、時代でのラグジュアリーなインテリアやライフスタイルを、期待を裏切らず堪能することができました。
映画は、私にとっての最高の教科書です。
インテリアを含む空間装飾、フラワー、フード、テーブルデコレーション・・・。
話題になる映画は、一流のクリエイター達の総合芸術で、映像、色彩、ファッション、装飾などのビジュアルデザインのあらゆるヒントが散りばめられているからです。
シーンの背景は、通常セットデコレーター(セットを作るデザイナー) が、時代考証、文化、習慣、土地柄、階級などあらゆることをリサーチして、決められた期間・予算で作り上げていきます。
この記事では、特に印象的だった、
・ロドルフォグッチのクラシカルでアンティークな家
・アルドグッチのコモ湖のクラシックな邸宅
・パトリツィアとマウリツィオのモダンなNYのペントハウス
のインテリアについて、解説していきます。
グッチ家シーンに登場する、3つのインテリア空間
1)ロドルフォグッチのクラシカルでアンティークな家
1つ目は、グッチ家の息子、マウリツィオグッチ(アダムドライバー)が、パトリツィア(レディガガ)を初めて
父親ロドルフォ(ジェレミーアイアンズ)に紹介するシーンです。
入り口は、黒枠のガラスのドア。
高い天井の玄関ホールは、グレー・ブラックを基調とし、重厚感と暗い印象を受けます。
パトリツィアが、ロドルフォとの挨拶をソワソワと待っていた場所は、古い木造りの階段の横でした。
窓から入るごく僅かな光で、大きなクリムトの絵が浮かび上がって、パトリツィアの目を奪います。
邸宅のあちこちに装飾された美しい絵画やアンティークの数々。
グッチのシグネチャースカーフ、フローラデザインを愛する、美意識の高いロドルフォのクラシカルなセンスが伝わってきます。
と同時に、美しくも暗く閉ざされたような空間は、ロドルフォが過去に生き続けていることも象徴しているように感じます。
華やかな俳優時代の自分、女優であった愛妻と幼かったマウリツィオとの幸せな日々が忘れられないロドルフォ。家業を継がず、弁護士になりたいマウリツィオと理解し合えない関係から、孤立を強めてしまっているのです。
セットデコレーターのインタビューを見ましたが、このシーンのロケでは1930年代の家
Villa Necchi Campiglio を選び、家具なども選び直したそうです。
セットデコレーターインタビュー記事はこちら。
リドリースコット監督好みの、知的な空間を目指したそうです。
2)アルドグッチのコモ湖のクラシックな邸宅
一方、ロドルフォの兄、アルドグッチ(アル・パチーノ)の邸宅は、真逆です。
アルドは商才にすぐれ、世界にグッチを広めたビジネスマン。
明るく社交的なキャラクターは、この燦々と太陽光が注ぐコモ湖のヴィラ=邸宅で表現されています。
目が覚めるような真っ青な湖を背景に、アルドのお誕生日を皆が乾杯するシーンに象徴されています。
エントランスは左右対称なシンメトリースタイル。
ヨーロッパのクラシカルスタイルは、シンメトリーが王道で基本です。
ガーデンでのパーティーシーンでも垣間見える、ガーデンデザインも、やはりシンメトリー。
大きな暖炉の前で、一家が談笑するシーンの空間の色彩は、アイボリーとクリームベージュが基調です。
ロドルフォの家の色彩とは対照的に明るいのが特徴です。
大理石のマントルピースの上には、壁に合わせた色のフラワーアレンジメントが置かれ、エレガントさも添えています。
この邸宅のロケ地、コモ湖は、イタリアとスイスの国境にあり、古くからヨーロッパの貴族や富裕層に愛されたリゾート地です。その景観の美しさからスターウオーズなど様々な映画でも舞台になっています。
ちなみに、ロケ地となった邸宅は、なんとairbnbで1泊17万円ぐらいで滞在することができることでも話題になりました。
コモ湖のAir BNB Villa Balbiano はこちら
↓
Villa Balbiano Air BNB
コモは、夫がチューリッヒに駐在していた時に、一緒に訪れたことがあります。
それはそれは夢のような景観で、ヨーロッパのアッパークラスの品格が自然とも調和し、ため息が出るほどの美しさでした。他にはない景観ですので、このシーンが出てきたときに、すぐにコモだ!とわかりました。
生涯もう一度訪れたい場所です。
3)パトリツィアとマウリツィオのNYのペントハウス
マウリツィオは、質素な生活を望んでいたのですが、パトリツィアはグッチ家に入り、マウリツィオを家族に戻してラグジュアリーなライフスタイルを手に入れます。
イタリアの二人の自宅シーンは、照明を落とした室内に暖炉があり、マントルピースの上には、キャンドルがシンメトリーに置かれたクラシックなテイスト。
一方、NYのペントハウスの自宅シーンは一転して、ポップなモダンスタイルになります。
まさに80年代〜90年代のNYのアッパー層に愛されたスタイルを再現しています。
真っ白の壁には、アイキャッチとして、リヒテンスタインなどのカラフルなポップアート。
軽さのあるクローム素材の、モダン家具とも引き立てあっています。
家具にも色が入っているので、カラフルな空間作りは難しいのですが、このシーンは見事な色彩バランスで作られていると感じました。
ポップアートの横に飾られた、白のモダンなレリーフは、主張しすぎず、でも個性が全くないわけでもないパーフェクトなサブアイテムだったのですが、やはりセットデコレーター達がこだわって作ったのだそうです。
製作したセットデコレーターのインタビュー記事はこちらです。
数多くの映画やドラマでNYのイメージシーンは、モノトーンをベースにモダンインテリアで作られることが多く、この映画では、80年代、90年代の、ポップモダンが好きな人にはたまらない空間装飾となっています。
映画はデザインヒントの宝庫!
以上、映画「ハウスオブグッチ」から、気になるインテリアシーンを解説しました。
私は職業柄、背景の空間デザインや、デコレーションに目を奪われることが多く、気になったシーンは後から何度も見直してノートに書き留めています。実際に”あの映画の、あのシーン!”のようなお話でクライアントとも盛り上がることも多いので、趣味と仕事が一緒になっています。
また、各映画のセットデコレーターの製作裏話も、専門記事を見て学びを得ています。
この映画はイタリア人女性のセットデコレーターが担当しました。
彼女曰く、この時代のヨーロッパの富裕層の家のインテリア装飾は、そもそもプライベート空間としてあまり外に出ることがないので完璧ではなく、ある程度想像の範囲でセットを作ったそうです。
NYブティックのオープンシーンで陳列したヴィンテージのGucciのアイテムも、Gucciに掛け合ったものの、なかなか返事が来なくて、その間に愛好家から集めたり、それはそれは見えない苦労があったとか。
インタビュー動画では、その他にも装飾や撮影秘話についてセットデコレーターが語っています。
動画では英語でお話しされていますが、翻訳して要約した記事を書きましたので、ご興味があれば是非読んでみてくださいね。
↓
ハウス・オブ・グッチのセットデコレーターが語るコロナ禍での撮影秘話
デザインのポイントやこだわりをまとめました【翻訳】
華麗なる一族の実話スキャンダルがテーマの映画「ハウス・オブ・グッチ」。
レディガガのなりきり体当たり演技は終始圧倒されますし、アルパチーノ始めとする豪華キャスト演技も見事、
そして、王道ラグジュアリーがテーマになった空間を大スクリーンで見るのもまた圧巻です。
ぜひ、デザイン視点からも「ハウス・オブ・グッチ」を見て、映画の楽しみ方を増やしていただければと思います。
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